Q:子どもが思春期の時に小児ガンを患いました。
再発や晩期障害の可能性はあり、
放射線や抗がん剤の影響なのかかなり疲れやすいですが、
今は元気に学校に通えています。
子ども自身も、数年経ってようやく
当時の事をポロッと口にする事も出来るようになりました。
1番大変なのは子ども自身、辛いのも子ども自身、
できる事なら変わりたい、
本人もどれだけ泣いたんだろう、怖かっただろう、
とかわいそうで申し訳なくて、
1人になると私も毎日泣いていました。
復学した学校で、先生や生徒から心無い言葉や扱いを受けた時は、
本人以上に怒りも湧きました。
おかげ様でもう5年以上経つのですが、
未だに「ガン」とか「子どもが病気」という話題や場面になると、
当時の気持ちが溢れてきて、泣いてしまいます。
子どもの気持ち、健康が1番である事に変わりはありません。
ですが、ふと、この泣いてしまう気持ちはいつまで続くのだろう?
蓋をしていても一向に消化されないようだ?
と疑問に思い、質問させていただきたく思いました。
今でも、医師から病名を聞かされた時の衝撃は昨日の事のようで、
感情はあの時のまま止まってしまっているようにも感じます。
親の私でさえこんなにショックなら、
本人は大丈夫かしら?と心配もあります。
ただ蓋をしておくのでなく、もし親自身乗り越え方があるなら
アドバイスいただきたいです。
【泣き虫・40代・専門職】
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A:FROM 川畑のぶこ
我が子の病気、とりわけ、がんのような病気の告知は、
この上なくトラウマティックな体験だと思います。
おそらく泣き虫さんも、「なぜ、私の子どもが?」と、
ショックで頭の中が真っ白になったことと思います。
お子さんも同じであったことでしょう。
辛い治療を乗り越え、復学もされたとのことで、何よりです。
当時の辛かった体験を本人が話し始めるようになったのは、
心の整理がついてきている証でもあるかと思います。
感情の渦に巻き込まれるフェーズを脱し、
それを客観的に見て自分を語れるように
なってきているようで、良い流れだと思います。
泣き虫さんを不意に襲う悲しみに関して、
子どものがんに親が悲しむのは当然で、健全な感情です。
その感情に蓋をする必要はありません。
同じような境遇にいる人に触れて、涙が潤むのも、
無理に止める必要はありません。
悲しみを共感できるということは、豊かなことでもあります。
ただし、泣き虫さんが憂いているのは、
今はお子さんも病気を乗り越えながら、
日常生活も問題なく過ごしているのに、
そのことよりも過去を振り返りすぎて
苦しくなってしまうということかと思います。
感情を無理に押し殺すのは良くないですが、
過去を想ってばかりで、
その悲しみが、今このときを台無しにしてしまうのであれば、
これは対処が必要です。
まず、泣き虫さんには
「我が子はがんで惨めな人生を送る(送っている)かわいそうな人間だ」
という基本的な信念があるのではないかと思います。
たしかに、がんの闘病は困難を伴うことも多くあります。
ところが同時に、病気には苦しみのみならず、
かならず恩恵も存在します。
たとえば、泣き虫さんが他の闘病者に共感するように、
お子さんや泣き虫さんに深く共感し、
慈しみを与えてくれた人も多くいるのではないでしょうか。
このような周囲の人々からの思いやりや優しさは、
元気で楽しく人生を送っているときには
なかなか体験できないものです。
また、人生で最も大切にしたい美しい体験のはずです。
お子さんも、泣き虫さんも、
世の中には元気で問題ない人ばかりではなく、
人知れず苦しみや悲しみの中に生きている人々も
いるのだと気づいたことと思います。
我が子だけでなく、同じ病棟にいる子どもたちのように。
このように、苦しんでいる者への理解や共感が深まる
こともまたかけがえのない素晴らしい体験です。
このような困難を乗り越える体験は、
人生に奥行きや深みを与え、お子さんの人生を
一回りもふた回りも大きく成長させてくれるはずです。
困難に直面しているときに、
自分たちの味方になってくれる人とそうでない人も
明確になったのではないでしょうか。
味方になってくれた人たちが、
人生で大切にすべき人間関係です。
病気は人間関係を目に見えるようにふるいにかけてくれます。
私は患者さんやご家族に、
大きな病気をすると、人生にも「大きな人事異動」があるよ
と伝えています。
そして、この異動はしばしばショックを伴いますが、
結果的に私たちの人生を健全化してくれます。
病気になって失うものは多いかもしれませんが、
得られている好ましいものもあること、
すなわち、恩恵にも意識を向けてみてください。
病気は人生の結果ではなく、プロセスです。
お子さんも泣き虫さんも、
「惨めでかわいそうな人間」ではなく、
「困難に果敢に挑戦する、勇者である」こと、
また、「さまざまな経験を重ね、
人の痛みや苦しみを深く理解できる、慈悲深い人間である」こと、
そして、「滅多にないこの経験を、人々の役に立てることができる」
ということを繰り返し思い出してください。
涙は、困難を乗り越え、健気に頑張っているお子さんの姿に、
じんわり溢れる、切なくもあたたかい涙に変えてください。
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